「写真リサーチャー」の適性 〜ストックフォトについて(13)

前回の投稿で書いた「写真リサーチ」という仕事について調べてみると、イギリスではキャリア教育などの中で職業として紹介されています。その仕事の説明の中で、職業的な「適性」についての記載がありましたので、ここでもシェアしてみたいと思います。

写真リサーチャーについて紹介をしているのは、イギリスのメディア、ファッション、映画などのクリエイティブ産業界の人材教育とビジネスを支援するCreative Skillsetという団体です。
イギリス産業の国際競争力を後押しするために、この団体が各業界と業界で働く人々や就職希望者の仲立ちをして、情報の提供や研修などキャリア教育の支援をしているのです。
そこで紹介している「写真リサーチャー」とは、「リサーチスキルや経験、同時進行的にさまざまな視点から考える水平思考を用いて、依頼者に代わって特定のイメージを探したり、使用許可を得る人」で、ストックフォトエージェンシーや写真事務所、または報道機関に所属するか、フリーランスの立場で活動するとあります。

Creative Skillset HP.JPG
(Creative Skillsetの写真リサーチャー紹介ページより)

仕事における適性というのもあって、「きちょうめんでクリエイティブであることにITスキルが備わった人」として、事務や整理ごとに長けていて、リサーチスキルだけでなく、交渉術や依頼者のニーズを的確に把握できるコミュニケーション能力も求められること。そして、複数の仕事を同時並行でこなす能力と、著作権など写真に関わる権利関係の知識が求められるとあります。
この仕事をしたものとしては、どれも納得のものなのですが、適性として私も大切だなと共感したのは、「視覚判断能力(visual literacy)」と「視覚記憶(visual memory)」に優れていることです。

心理学やコミュニケーションなど、さまざまな場面で応用されるNLP(神経言語プログラミング)の理論に「感覚の優位性」があります。人が五感を使って周囲の世界や現象を認識するときに、それぞれ持っている感覚のバランスによって差異があり、〇覲侏グ漫◆´聴覚優位、 B隆桐グ未吠類されるというものです。
その中でも、写真リサーチャーとしては、視覚優位な人が向いているのだと思います。

私も仕事をしていて、「目で記憶する」ことが活かされる場面が何度もありました。
オリンピック出場選手など、大勢の人の名前を顔と一緒に覚えたり、膨大な数の写真から自分が扱ったことがある写真をぱっと見つけられると、仕事の効率がぐんと上がります。

それにしても、イギリスではこうしたあまり知られていない仕事も紹介しているのですね。
ロンドンの学校では、写真リサーチについて学ぶコースもあります。
イギリスのストックフォトエージェンシー協会が実施しているもので、写真の歴史や権利関係などについて教える2日間のコースなどが用意されています。
問題は、このような教育を受けた人たちを業界側がどれだけ受け入れられるのかにあると思いますが、写真を撮る仕事だけでなく、流通させる仕事も業界としてきちんと世に紹介しているイギリスの取り組みには感服させられます。

※引用元:Creative Skillset、picture researcherページより
| Sayuri Inoue | 【コラム】 「ストックフォトについて」 | 17:27 | comments(0) | - | - |
「写真リサーチ」という仕事 〜ストックフォトについて(12)

ストックフォトビジネスに関して、久しぶりに書き加えてみたいと思います。
今回は、オンライン写真サービスが始まったときに、思いがけずニッチなサービスとして事業が確立した「写真リサーチ」についてです。

その経緯については、先に投稿した「デジタル化が先行した分野 〜ストックフォトについて(6)」で少しふれていますが、写真のオンラインサービスが始まった過渡期を乗り切るために、出版社の編集者に替わってさまざまなフォトエージェンシーへ出向いて写真探しをしたところ、これが編集者のニーズにマッチして重宝されるようになったサービスです。
最初は、「○○に関するいろいろな絵柄を見てみたい」というバリエーションの豊富さを求める依頼でしたが、だんだん「どこにあるかわからないけど、○○の写真がほしい」というリクエストが増えてきました。
そんなある時、米国の写真を探していて行き当たった女性がいました。
彼女が名乗った職業は、「フォトリサーチャー(photo researcher)」。
彼女との仕事を通して、写真のリサーチが米国では仕事としてすでに確立されたものだということを初めて知ったのでした。
ニューヨーク在住の彼女は、フリーランスで米国の出版社などから仕事を請け負い、私たちがやっていたような方法で写真を提供するサービスを行っていました。写真を所蔵する特定のフォトエージェンシーには属さず、フリーな立場でさまざまな写真にあたるというものです。
その後、同じ「フォトリサーチャー」でも、特定の場所で写真を探す専門家がいることもわかりました。
米国の国立公文書館(National Archive)の写真を探す専門リサーチャーです。
ここには、従軍写真の草分けである米国独立戦争にはじまり、第二次世界大戦を含む戦時中の写真など、歴史的に貴重な大量の写真が国家予算で管理されています。
90年代に入ったときにはすでに画像データベースが蓄積されており、ウェブサイト上で検索して写真を見たりダウンロードすることもできました。
写真を探すときに、すでに手がかりとなる詳細情報を持っていて、ピンポイントで写真を探すときにはデータベースは有効ですが、情報がないと途方に暮れてしまいます。そんなときに、専門家に依頼をして、目当ての写真を探してもうらうのです。
当時の話ですが、調べてみると、国立公文書館専門のフォトリサーチャーは複数いらっしゃいました。全員が国立公文書館があるワシントンD.C.近郊に在住で、それぞれに得意分野があるようです。そして、ほとんどが年配の方でした。
少しでも写真リサーチの仕事をしてみると、経験知が何よりも強みになっていくことがわかります。積み重ねが力になる仕事であることから、専門家としての職にある国立公文書館のフォトリサーチャーが年配なのもわかる気がします。

東京にも、フリーな立場で写真リサーチを本業とするフォトリサーチャーはいらっしゃいます。
オンライン写真サービスの過渡期から、ずっとこの仕事を続けている渋谷栄さんは、写真リサーチの専門家です。写真業界に訪れたデジタル化の波にもまれながらも、情報が劇的に増えた今だからこそ、その人が持つネットワークやノウハウはいつでも必要とされるのかもしれません。
(渋谷栄さんのHPはこちら。)
| Sayuri Inoue | 【コラム】 「ストックフォトについて」 | 23:27 | comments(0) | - | - |
ゲッティに学ぶ近年のビジュアルトレンド 〜ストックフォトについて(11)
※「ストックフォトについて」の第一話はこちらから。
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10年前の雑誌などの広告写真を見ると、なんだか時代を感じるなぁと思うことありますよね。
ファッションやメイク、ヘアスタイルなどで当時の風俗や流行の変化を感じたりするものですが、その時々の空気を伝える写真の撮り方にも、求められるテクニックや流行りがあるものです。
そんな「ビジュアルトレンド」というものについて、今年2月に出かけた東京のソーシャル・メディア・ウィーク(Socail Media Week)のイベントで語られていましたので、ここでシェアさせていただきながら考えてみたいと思います。
(開催されてから季節がひとつ変わってしまいましたが、そこはどうかご容赦願います。)

ソーシャル・メディア・ウィークは、東京をはじめとする世界各都市で開催されていて、ソーシャルメディアにから社会の現状や最新の動きを多角的に捉えようと、最先端の現場で働く専門家や識者がさまざまなテーマで語るレクチャーやシンポジウム形式のイベント。
フェイスブック仲間が話題にしていたので知り、何か写真に関するものはないかと探してみたら、まさにどんぴしゃのがテーマがあったのです。
『ソーシャル時代のヴィジュアル・コミュニケーション革命』というお題で、世界的なストックフォトサービスを展開するゲッティ イメージズ ジャパンの社長である島本久美子さんと、「セカイカメラ」のアプリ開発で知られるテレパシーの井口尊仁さんが対談するもので、これは行かねばと会場の講談社へ出かけたのでした。

島本さんのお話では、フェイスブックに代表されるソーシャルメディアの出現によって、多くの人が「ビジュアルに日常を表現」しようとするようになったと言います。
私もそうですが、それを実感する方は多いと思います。iPhoneのカメラ機能やインスタグラムや漫画カメラを含む画像アプリケーションの楽しさや気軽さもあって、「おいしい」、「かわいい」、「わくわく」といった日常の中でふと心が動いたときに、それを写真に残してシェアする機会を楽しむ人が増えています。日本だけでなく、世界の多くの国で共通のことなのでしょう。
そうした中、ストックフォト業界でも使われている写真の量は「ハンパなく増えている」と島本さんは言います。
島本さんの会社(ゲッティ イメージズ)で扱う写真使用のためのライセンス(権利処理)の数も増えているという中で、そのプロセス遂行までのスピードも重要視されており、量もスピードもどんどんアップしているそうです。

そんな世の中の変化とともに、ビジュアルトレンドも変化しており、その要素を3つの言葉で提示していました。
一つ目は、「インスタント・ノスタルジア(Instant Nostalgia)」。
「写真を見ている人が自分も参加しているような気を起こさせる写真」ということで、日常を切り取ったような自然体でカメラ目線でないアナログ調のイメージが広告に使われることが多いそうです。
二つ目は、「飾らない(Anti-Vanity」イメージ。
パーフェクトでなく、リタッチしすぎない自然体の写真が求められているとのこと。
そして三つ目は、「リアル・モデル(Real Model)」で、被写体となる人物も、これまでのスリムなプロモデル体型から、「存在感のある普通の健康的な人」が起用されるようになったそうです。

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(「ビジネスマン」のトップセラーイメージの比較。目線の違いや、ネクタイの有無、めがねやひげといったディテールに違いが見受けられます。手前がゲッティイメージズジャパン社長の島本久美子さん)

慨してみると、「より自然なビジュアルが求められている」そうで、このところの社会情勢や流行に照らすと、そりゃそうだよねと納得するものがあります。
環境問題や暮らし回りに意識が高い人が増え、ロハス市場が生まれたことに加え、リーマンショックによって生き方や暮らしを見直す機会が訪れたのは日本だけのことではないでしょう。心身へのストレスが大きい働き方や生活リズムを見直したり、オーガニックコットンや無農薬野菜を取り入れるようになった方も多いと思います。
自然体で飾らず、心身にいいことを大切にしようとする意識の高まりがビジュアルトレンドに反映されるのは当然ではありましょうが、世界的にも同じような流れがあることに感慨深いものがあります。
言葉を超えてシェアされるイメージにこそ、ソーシャルメディアによってあらゆる人たちを動かす可能性があり、ビジュアルトレンドも全世界的なものとして動く潮流になりえるのでしょう。

島本さんいわく、世界展開をするゲッティにあって、提供されるイメージや使われる素材の量では、日本はまだまだ少ないそうです。
写真によって、日本人の感性でチャレンジできる舞台はまだまだあるのだなぁと、なんだか大きな可能性を感じたのでした。

※対談の内容は、ネットマーケティングのウェブマガジン「MarkeZine」に詳しくレポートされています。

「ストックフォトについて」のコラム一覧:
(1) カメラマンのビジネス
(2)写真の「広告」と「エディトリアル」使用
(3)フォトエージェンシーとは
(4)ストックフォト業界のデジタル前夜
(5)写真業界におけるデジタル化の醸成要因
(6)デジタル化が先行した分野
(7)ロイヤリティーフリー写真の登場
(8)写真エージェンシー業界の再編
(9)プロアマ境界のあいまい化
(10)ストックフォトは儲かるのか?
(11)ゲッティに学ぶ近年のビジュアルトレンド
| Sayuri Inoue | 【コラム】 「ストックフォトについて」 | 21:36 | comments(0) | - | - |