インターンシップその後(4) 〜ユニバーシアード
 

※「インターンシップその後(1) 〜ユニバーシアード」編の第一話はこちらから。

「インターンシップ 〜米大統領選挙」編の第一話はこちらから。
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国際大会であるユニバーシアードには、日本からもさまざまな競技の選手たちが参加しています。

そして、その競技を取材するカメラマンも日本から来ています。

私にとってこの大会は、日本人のプロカメラマンと居合わせた初めての撮影現場でもありました。


競技場でその姿を見かけると、これまで同業者にそうしているように挨拶をしました。

「こんにちは」と日本語で話しかけると、皆びっくりしたようでしたが紳士的に言葉を返してくれます。

その中で、メガネをかけた真面目そうなカメラマンと、キャップ帽を後ろにかぶった学生のように若いカメラマンとはあちこちの競技場でよく一緒になりました。

話をしてみると、どちらも同じスポーツ写真エージェンシーに勤めており、そこは日本オリンピック委員会などの公式写真を撮っているとのこと。

次のユニバーシアードは福岡で開催されるので、日本の組織委員会の写真も含めて撮影をしているとのことでした。日本にそのような写真エージェンシーがあることを知ったのは初めてのことでした。

 

大会も終盤になって、マラソン競技の日。

私は先頭ランナーの前を走る撮影車に乗って撮ることになりました。

撮影車はピックアップトラック。

スタジアムの外で荷台に乗りこむと、選手たちが集団で沿道へ飛び出してきます。

さあ、出発。ゴトゴトと予想以上に揺れるトラックの上で、望遠レンズを支えながらシャッターを押すのはなかなか大変なことでした。

のどかな原っぱが広がる郊外からバッファロー市街を回るコースをゴトゴト走ります。

レースは進むにつれて一人旅になり、沿道の景色を見る余裕もできました。

トラックの上の風が気持ちよく感じながらゴールがあるスタジアムに戻ってくると、トラックはコースを逸れて停まりました。

荷台から降りると、体に残った振動でふらふらになり、42.195キロの長さを感じたのでした。

 

大会最終日、ハイライトである陸上競技の撮影でスポーツ写真エージェンシーのカメラマン2人と一緒になり、大会後は私も日本に帰国することなどを話しました。

「日本に帰ったら連絡してくださいよ」と言葉をかけてもらい、社交辞令であってもうれしいなと思いながら別れました。

これがその後の私の人生における運命の出会いになろうとは、この時は思ってもみませんでした。

数ヵ月後、この出会いがきっかけで、2人が勤めるスポーツ写真エージェンシーで私も働くことになるからです。

 

そんなことなど露ほど知る由もなく大会は無事に終わり、ジョーをはじめ大会期間を共に過ごした公式写真チームのカメラマンたちと別れを惜しみながらバッファローを後にすると、私はコロンバスへ戻りました。

留守宅のポストで待っていたのは、出発前にダメもとで履歴書を送った日本の新聞社と通信社からの手紙です。

どちらも、東京本社の写真部長さんからでした。

履歴書に同封した作品1点1点に講評をつけていただき、不躾な学生への丁寧な対応に感激しながら手紙を読むと、採用には就職試験を受けてもらわなければならないというものでした。

やっぱりそうかと思いながら、なんとなく気持ちはすっきりしていました。

まだチャンスはなくなったわけではない。そう思いながら、4年過ごしたコロンバスを去る準備を進めました。   (終わり)

ユニバーシアード公式写真チーム集合写真s.JPG
(ユニバーシアードバッファロー大会の公式写真チーム)

| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップその後 〜ユニバーシアード」 | 09:46 | comments(0) | - | - |
インターンシップその後(3) 〜ユニバーシアード
 

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ユニバーシアードが開幕すると、毎日さまざまな競技を撮りに出かけました。

大学新聞の取材で、バスケットボールやアイスホッケー、体操など、200ミリのレンズでも撮ることができる室内スポーツを中心に撮ったことはありましたが、サッカーや野球など、望遠レンズが必要なフィールドスポーツを撮るのは今回が初めての私。

それでも、メディアセンターに入っているキャノンのサービスセンターで望遠レンズをお借りして、いきなり本番で撮らせてもらいました。


そんな素人的な写真は、機材がいいのでそこそこ撮れているものはあっても、やはりプロのものとはお話にならないくらい違います。

写真の出来にふがいなさをかみしめる私に対し、ジョーをはじめ、周りのプロカメラマンは、文句や小言を言うようなことはありませんでした。写真を見ながら、露出やシャッタースピードの決め方をひとつひとつ教えてくれたのです。

学生あがりのインターンだったからこその対応だと思うのですが、そのアドバイスをすぐに試すことができる競技期間はありがたいものでした。

ユニバーシアード93 サッカー韓国s.JPG

 

期間中は競技だけでなく、選手村の様子を撮りによく足を運びました。

選手たちはだいたい同年齢の学生なので、撮りながら話をするのは楽しいものです。

敷地内を歩いていると、歩道に露天を広げてて小物を売っているジャージ姿の男子がいます。背中には東欧の国名。

ソ連崩壊後のごたごたが伝えられる中、こうした国際大会で露天をする国情とはどんなものか、聞いてみたくともいろいろな思いが混ざって聞けずに終わってしまいました。

 

また、選手村といえば、大会が開幕してからもまだ到着していない国の選手がいました。

当時、パンナム機爆破事件で国連の経済制裁を受けていたリビアです。

そのリビア選手が「今日着くらしい」という連絡を受け、入村シーンを撮りに出かけたことがありました。

出迎えをする建物の前で待っていると、予定時間をだいぶオーバーして車が到着。白いアラブ服を着た男性が2人降り立ちました。

そばにいた関係者は、来るという連絡が何度もありながら、今日やっと到着したので良かったとうれしそうでした。


当たり前のようにスポーツができる環境がどういうことであるかを感じる選手村での出来事でした。  (つづく)

ユニバーシアード93  日本野球チームs.JPG
| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップその後 〜ユニバーシアード」 | 21:27 | comments(0) | - | - |
インターンシップその後(2) 〜ユニバーシアード
 

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6月、10万人を収容する大学のフットボールスタジアムで卒業式がありました。

学生数6万人のマンモス大学では卒業生は数千人で、卒業生の入場だけで1時間以上かかります。

その入場の間、芝の上で吹奏楽部がひたすら演奏してくれていて、すぐ横に設けられた救護班のテントには具合が悪くなった演奏家が何人か休んでいます。

晴れ渡った空の下、祝いに駆けつけた家族はこれまた屋根のない観客席で見守っており、なんだか大変だなぁと思いながらも、待望のこの日を迎えた喜びを全身で味わっていました。

 

就職浪人を決めたというのに、就職活動については完全にアメリカナイズされていた当時の私は、焦りや不安を感じることもなく、気持ちはユニバーシアードへ向いていました。

日本のような就活シーズンがないアメリカでは、就職活動とは完全に個人のペースで踏み出していくものであり、私もそうやっていくものだと思っていたのです。
なおかつ、日本での「就職の常識」について、幸か不幸か、日本にいる同級生や大学の日本人の先輩はじめ、親からさえも教えてもらったことはなく、無知ゆえの無邪気さで、日本に帰っても何とかなるとただただ楽観的でした。

 

いよいよ7月になり荷造りをすると、車でバッファローへ向かいました。

コロンバスからひたすら東へ単調な景色の中を走り、やっとのことでバッファローに着くと、まずジョーの家へ挨拶に行きました。

住宅街に並ぶ2軒の家を所有し、広い裏庭では各地から集まってきたカメラマンたちがバーベキューをしながらビールを飲んで談笑しています。ジョーと久しぶりの再会を喜ぶと、仲間のカメラマンの輪へ入れてくれました。

この大邸宅には、ジョーのアシスタントとしてカメラマンを目指す男子大学生が何人か下宿をしており、大きな2台の冷蔵庫にはビールがいっぱい。

機材の部屋を見せてもらうと、何十台ものカメラとレンズがびっしり並んでいて、プロのカメラマンの機材はこういうものなのかとびっくりしました。

 

翌日、スタジアム会場のそばのメディアセンターへ行くと、公式カメラマンチーム特製のカメラバッグをいただきました。アメリカの多くの報道カメラマンが持っているドンケ製のバッグで、バッファロー大会ロゴの刺繍が入っています。そのバッグを持ったカメラマンは30人ほど。そのうち女性は、カナダ人のレネ、韓国人のチョンキュと私の3人でした。

 

最初の撮影は開会式です。

ジョーが全員の撮影ポジションをてきぱきと指示する中、私は選手たちに混ざり、一緒に入場しながらグランドレベルで撮るよう言われました。

Take wild shots!(ワイルドな写真を撮っておいで!)」

そう言って送り出された私は、スタジアムの外で出番を待つ日本人選手団の後ろにつきました。

 

風に乗って入場の音楽が聞こえてきます。

順番に動き出した選手と一緒にスタジアムに入ると、びっしりと埋まった観客席とはちきれそうな笑顔のボランティアたちが並んでいます。割れんばかりの歓声の中を歩きながら、選手たちと同じ景色を見て、撮って、感じていました。  (つづく)

ユニバーシアード93 開会式03s.JPG

          (スタジアムへ入場する日本選手団)

ユニバーシアード93 開会式01s.JPG
(トラックの周囲を囲むボランティアの人たち)

ユニバーシアード93 開会式02s.JPG

 

| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップその後 〜ユニバーシアード」 | 23:47 | comments(0) | - | - |