インターンシップ(10) 〜 米大統領選挙 就任式

「インターンシップ」の第一話はこちらから。
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イブニングドレスで3段の脚立。

このガテン系の道具をかつぐのにドレスとは、まったくとんちんかんな組み合わせですが、それでも私はわくわくしていました。

車に乗ってケネディーセンターへ着くと、タキシードのカメラマンと一緒にカメラと脚立を持ってエントランスへ向かいます。

時間になったらロイターのバイクが来てくれるので、フィルムをここで手渡すことを確認しました。

受付では、入場許可証ではなく、招待状を見せて入ります。通路を忘れないようにきょろきょろしながら会場に入ると、指定された撮影場所に脚立を立てました。

 

まもなく招待客が次々に入って来ると、私は自分がドレスを着ていることに不思議と安心感を感じたのでした。

今思うとそれは、その場にいる人たちの中に混ざっていても「浮いていない」安心感です。

人々の中へ入っていて撮影をするカメラマンにとって、着るものがどれだけ大事かを知った時でもありました。

被写体である大統領をはじめ、招待客やこの場を造りだしているすべての人たちに対して敬意を表し、じゃまにならないように雰囲気に調和することが大切だということを、この舞踏会は教えてくれました。

その意味では、私にとってのイブニングドレスは「変装」といってもいいかもしれません。

 

サファイヤのような深いブルーのドレスを着たヒラリー夫人とともに登場したクリントン新大統領は、にこやかにスピーチをし、慣例となっているダンスを披露します。

二人はきらきらとたくさんの光に包まれて、本当にきれいでした。

クリントン大統領夫妻就任式舞踏会.JPG
(スピーチをするクリントン新大統領とヒラリー夫人)


ダンスが終わると、急いでカメラマンからフィルムが入った封筒を受け取り会場をぬけ、ドレスをたくし上げて元来た通路を駆け抜けます。そして、予定通りエントランス外にはロイターのバイクが着き、無事にフィルムを手渡すと、私の仕事は終了しました。

 

大統領選挙に関したロイター通信のインターンシップを終え、私はカメラマンになりたいと思いました。

フィルム運びとはいえ、撮影現場の最前線に居合わせることができ、その場にいないと撮れない仕事への緊張感と集中力をロイターのカメラマンからびんびんと感じました。その姿は、とてもかっこよかったのです。

そして、言葉がなくても、時に言葉以上のものを人に伝えることができる写真に可能性を感じました。

インターンシップは、ホンモノのプロの仕事ぶりと現場を五感すべて知る何にも代えがたい経験を与えてくれ、その経験が自分の志を確固としたものにしてくれました。

コロンバスへの帰路、私には将来の目指す方向に何の迷いもありませんでした。 

「インターンシップ 〜 米大統領選挙 編」 終わり)

 

| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップ 〜米大統領選挙」 | 00:32 | comments(0) | - | - |
インターンシップ(9) 〜 米大統領選挙 就任式
 

「インターンシップ」の第一話はこちらから。
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時は1月20日、場所はアメリカ合衆国議会議事堂。
クリントン新大統領の就任式で、私はこの建物のシンボルであるドーム下にいました。

祝賀昼食会のテーブルセッティングが終わり、準備にあわただしく動いていた職員が持ち場につきます。

と、そこへ、わいわいと談笑しながらスーツやワンピース姿の人々が入ってきて、階下がわーっときらびやかになりました。

クリントン政権を担う新しい閣僚だと教えてくれたカメラマンは、パシャパシャとシャッターを押しています。

乾杯をして食事が始まると、撮影は終了。待っていた時間とは比べものにならないほど短い撮影時間でした。

 

その場を離れたカメラマンの無線に連絡が入りました。

「ブッシュとバーバラがヘリコプターに乗った。」

これを合図に、私はフィルムが入った封筒を持って動きました。就任式に列席していた元大統領夫妻がヘリコプターで離陸するまで、議事堂周辺は厳戒態勢だったようです。

係員の誘導で急いで外へ出ると、そこは議事堂の裏手。バイクにまたがって待っているロイターのスタッフへフィルムを手渡すと、体の力が抜け、今まで見ていた光景は夢であったように感じるのでした。

 

ぼーっとした頭のままオフィスへ戻ると、今度は着替えです。

次の任務は、ケネディーセンターで開かれる舞踏会の撮影カメラマンのアシスタント。

ここのドレスコードが「正装」で、招待客でもないおまけの私も中へ入るにはイブニングドレスを着用しなければならないのです。

着替えてお化粧を整えてからみんなのところへいくと、男性のカメラマンは全員タキシード姿です。

こういう時、アメリカ人の人たちはドレス姿にひとこと褒め言葉をかけてくれます。ちょっとどきどきしていると、写真部長のティムが私もカメラを持っていっていいよと言ってくれました。

イブニングドレスでカメラバッグを提げると、一緒に行くカメラマンがなんだかすまなそうに「あれもいるんだよ」と指さします。

あっ。。。

それは3段の脚立でした。   (つづく)

| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップ 〜米大統領選挙」 | 23:08 | comments(0) | - | - |
インターンシップ(8) 〜 米大統領選挙 就任式
 

「インターンシップ」の第一話はこちらから。
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1992年11月3日に行われた大統領選挙の投票の末、民主党のビル・クリントンが、再選を狙った共和党で現職のジョージ・H・W・ブッシュを下し当選しました。


年が明けると、大統領就任式でのインターンシップのため、私はイブニングドレスを持ってワシントンD.C.へ向かいました。
(※「イブニングドレス」のエピソードはひとつ前の第七話をご参照ください。)

アメリカ政治の中心であるここに、ロイター通信の北米総局があります。

まずは、官庁街に近いこぎれいな建物にある写真部を訪ねました。

写真部長のティムをはじめ、編集やカメラマンの人たちと夏の党大会ぶりの再会を喜ぶと、コーヒーを淹れてくれ、オフィス内をあちこち案内してくれました。今さらのようですが、ニューヨークやヒューストンの仕事場は出先の仮設基地のようなものだったので、やっとホンモノの職場訪問ができた気がしました。

 

そして、1月20日に行われる就任式当日の打ち合わせがありました。

式の流れは、まず、国会議事堂前のバルコニーで、新副大統領が就任の宣誓。

続いて、正午に新大統領の就任宣誓。

礼砲の後、新大統領の就任演説。

その後、新大統領たちは議事堂内に入り、新閣僚たちと祝賀昼食会。

食後に最初の公務となる書類の署名をし、ホワイトハウスまでのパレードをするというものです。

夜には祝賀晩餐会と舞踏会が開かれます。

 

私のミッションは、国会議事堂内での昼食会を撮影するカメラマンにはりつき、終了後にフィルムを運ぶこと。そして、夜の舞踏会撮影のアシスタントです。


今回は、セキュリティーが党大会とは比べものにならないくらい厳しいということも伝えられました。

そのため、朝に国会議事堂内に入ったら、昼食会が終わるまではずっとその場を動けないと言われ、この一大イベントの物々しさを感じていました。

 

いよいよ就任式当日。まぶしい快晴です。

私はスーツを着て、準備があわただしい朝の国会議事堂へ出かけました。

大きな建物のどこから入り、どうやってたどり着いたのか分かりませんが、昼食会会場となるロタンダと呼ばれる円形部屋を上から一望できる桟敷のようなところへカメラマンと一緒に案内されました。

さあ、あとはひたすら待つばかりです。

 

天井には美しい絵が描かれています。私たちがいる桟敷席の手すりは濃く重厚な木で、磨き上げられ撫でるとつるつるします。部屋は思ったよりも小さく感じられ、円形のこの部屋から八方へつながる扉がぐるりと配され、開いていました。

 

無線で連絡をとっているカメラマンが、外で行われている式典の進行具合を教えてくれます。

議事堂の外は、新大統領を見ようと集まった数え切れないほどの人々の歓声に包まれているはずですが、中にいるとそんなことはまるっきり分からないほど静かな感じがします。

 

下を見ると、白いシャツに黒のパンツ姿のたくさんの人が忙しく出入りして、昼食会の準備をしています。

いつしか真っ白いテーブルクロスがかけられ、その上に一枚一枚、お皿が並べられていく様子を、私はじっと見つめていました。

もうすぐ、ここに新大統領が現れます。 (つづく)

owiwdc9301.JPG (就任式の入場許可証)

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                 (議事堂内に入るための許可証)

| Sayuri Inoue | 【体験記】 「インターンシップ 〜米大統領選挙」 | 00:25 | comments(0) | - | - |